2012年5月11日金曜日

海外で引き受けた株や債券などの金融商品

「市場混乱から実体経済への波及など経験したことのない混乱の影響を受けた」。野村HDの仲田正史・財務統括責任者(CFO)は24日の会見で、金融危機による打撃の大きさを振り返った。

昨年秋のリーマン・ブラザーズ破綻(はたん)のあおりもあって、米低所得者向け高金利住宅ローン(サブプライムローン)関連などで、約3000億円の損失を計上。リーマンの欧州・アジア太平洋部門などを買収したことに伴い約8000人を引き継いだことなどで、約2300億円の費用がかかった。投資、買収した企業の経営不振に伴う評価損なども響いた。

相場に左右されない収益構造づくりを目指し野村は、証券引き受け、M&A(企業の合併・買収)仲介などの投資銀行業務や企業買収部門の強化を進めてきた。だが、顧客から株、債券売買時の手数料を受け取る従来型の証券業務と違って、投資に伴い大きなリスクを負うことになった。

金融危機後、米の投資銀行、ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーは相次いで銀行持ち株会社に転換。本場、米国ですら金融技術を駆使し、少ない資金で巨額の投資をする投資銀行業務を収益の柱にするビジネスモデルは難しくなっている。

野村にとっても08年度は「お荷物」の存在になった。野村の業務部門のうち、通期で黒字を確保できたのは、従来の証券会社としての販売力の強さを背景にした国内営業部門と資産運用部門だけだった。

ただ、リーマン買収により、M&A仲介業務など伝統的な投資銀行業務には明るさも見え始めている。野村が今年に入って成立させた大型の資本提携のうち▽キリンHDによるフィリピンのビール最大手サンミゲルビールへの出資▽中国アルミ大手のチャイナルコによる英豪資源大手のリオ・ティントへの出資は、いずれも旧リーマンのアジア太平洋部門がもたらした。M&A仲介や、これに関連した資金調達などで投資銀行業務の拡大に成功すれば、海外で引き受けた株や債券などの金融商品を国内の強力な販売網で売りさばく相乗効果も期待できる。

シナリオが思い通りに進むかは、世界経済の先行き次第。仲田CFOは「(統合効果の)芽は出ている」と強調すると同時に「今時点で経済全体がどう動くが見通しづらい。リスクはまだある」ことも認める。