2015年12月12日土曜日

共通政策における構造調整

もちろんECが過剰農産物を輸出する場合も想定しなければならない。この場合は、世界価格に合わせて価格を下げるための経費を輸出払戻金という形でECが負担しなければならない。これはECの財政負担を増大させることになる。共通農業政策の成功も、国際市場全体の問題としてとらえ直すと、さまざま問題を抱えているといえるのである。

 ひと口に共通政策の成功というが、成功といえるところまでくるには各加盟国間の利害の調整という厄介な作業が必要であった。これが市場の調整を超える共同体の理論である。共通農業問題は、ECを支える基軸国、フランスとドイツの利害の対立を調整した典型的な例であった。

 EC農業の近代化と生産力の増大は、ECにおける農産物の過剰問題を絶えず惹き起こしていく。これまで共通農業政策は、フランス、オランダ、デンマークといった農業強国の意向を反映した農産物価格支持政策を基本として進められてきた。農産物価格は絶えず引き上げられ、結果的に農業所得は上昇し、ECの域内自給率一〇〇パーセントを達成した。その成果の反面、ECは農産物過剰という問題に当面することになったのである。ところが、この過剰問題の処理の仕方についての考えはフランスとドイツではまったく異なっていた。

 EC最大の農業国フランスは、農産物支持価格を引き下げて過剰農産物のはけ□を国際市場に求めようとした。これに対して、小規模農業経営が多く、農産物の輸入国であるドイツは、生産調整でこの問題に対応すべきだと主張した。農産物支持価格の水準いかんで農業基金が赤字になり、ドイツは拠出金に比べて還元額が少なくなる恐れがあるからである。