2015年11月13日金曜日

入国審査官の幅広い裁量権

行政改革の名のもとに、なんでもかんでも一律にブレーキをかけるという姿勢には、大きな疑問を感じる。難民か否かを認定することがどれほど重い意味をもっているかを再確認し、認定制度のいっそうの充実を図っていかなければならない。難民条約上の難民と認定してもらうためには、まず、当人が、理由がなんであれ、認定を求める国にたどりついていなければならない。国が難民の入国・在留を認めてこれを保護することができるのも、国の領土権(領域主権)がこのよyな保護の法的基礎の一つになっているからである。だから、難民の認定を求めている人が外国にいるままでは、当人を難民と認めても、当人を保護することができない。

 日本の入管・難民認定法でも、当人が日本の地に上陸していることが、難民認定手続きが始まるための前提条件とされている。当局側の説明によると、この「上陸」許可は、入国許可を意味し、日本の港や空港に事実上着いたというだけでは、法律上入国したことにはならない。そこで、この入管・難民認定法では、難民に対して一時的庇護のための上陸を許可する、という新しい制度が導入された。これによれば、法務省出入国管理局の入国審査官は、船舶や航空機で日本の地に着いた外国人が、難民またはそれに近い者かもしれないと判断し、かつ、一時的にしろ入国許可を認めるべき事情がある、と判断する場合、当人に対してこの上陸許可を与えることができる(第一八条の二)。

 この制度は日本による難民認定を求める者ばかりではなく、アメリカなど第三国による受け入れを求めて日本には一時的にだけ滞在しようとする者にも適用される。後者の場合、第三国がその受け入れを認めてくれないと、「一時的」であるはずの上陸が、長期化することになる。難民認定のやり方の話をしようというのに、一時庇護上陸許可制度から話を始めたのには、理由がある。入国審査官が、当人は難民かもしれない、と思うかどうか。この点についての幅広い裁量権がヽ入国審査官に与えられている・その判断の結果次第で喘当人吠難民認定はおろか、一時庇護上陸許可さえも与えられないことにもなる。入国審査官が、難民認定手続きの入口のところで、それを開けたり閉じたりする、という絶大な権限を握っている。

 それにもかかわらず、入国審査官の幅広い裁量権の行使を、少しでも合理的な、公正なものとするための手がかりは、入管・難民認定法にはなんら定められていない。しかし、いわば入口での、この裁量についてのあるべき基準は、難民資格認定の申請後に始まる難民資格審査で、証拠にもとづく認定手続きが用意されていることを考えれば、ゆるやかでなければならない。

 また、難民とは思われないという入国審査官による判定が、いったん下されると、それは、もう覆えせないのか。どうにかして難民資格認定審査にもちこめたとしても、先の入国審査官の判定結果は、この審査を拘束するような影響をもつのだろうか。なにしろ、入国審査官も難民認定審査にあたる係官も、同じ役所の部局に属しているのである。これらの点も、全体のしくみのなかで考えられなければならない。

 一時庇護上陸許可が与えられると、原則として、一八〇日間の在留が許される。この制度は、インドシナ以外の国々からの難民一般にばかりではなくインドシナ難民にも適用されることとなった。インドシナ難民の場合、まず、長崎県大村の一時レセプションセンターに収容される。その後、日赤カリタス・ジャパンおよび立正佼成会の諸施設や、国際救援センターに移され、そのうちで、日本での定住を希望する者は、神奈川県北部にある大和定住促進センターや姫路定住促進センターに移される。