2014年9月12日金曜日

インサイダー取引規制

いわゆる粉飾決算は継続開示書類の虚偽記載となって表れますが、粉飾決算をした企業が倒産していない段階で虚偽記載に対する刑事訴追を行うと、企業を上場廃止や倒産に追い込み債権者や株主に不利益を及ぼすことから、従来、継続企業に対する刑事訴追はあまり活発に行われていませんでした。課徴金制度が導入されてからは、粉飾額が大きく悪質なものに対しては刑事訴追を行い、粉飾の程度が軽微なものには課徴金賦課手続を開始するといった形で刑事罰と課徴金の棲み分けが行われているようです。そこで、課徴金納付命令が下されても企業が上場廃止とならない例も出ており、課徴金制度は継続開示書類の虚偽記載に対して活発に適用されています。ただ、従来の算定方式では課徴金の額が低すぎて十分な抑止効果を発揮できていない嫌いがあったことから、平成20年改正により、課徴金額が引き上げられました。

 引き上げ後の課徴金の額は、有価証券報告書の場合、600万円と有価証券の時価総額に10万分の6を乗じた額のいずれか多い額、半期報告書・四半期報告書・臨時報告書の場合、300万円と有価証券の時価総額に10万分の3を乗じた額のいずれか多い額です(172条の4)。発行開示違反の場合とは異なり、継続開示の虚偽記載に対する課徴金については罰金との調整規定が置かれています(185条の7、185条の8)。これらの場合の課徴金に利得の吐き出しを超える制裁部分があることを考慮したものです。また、継続開示書類の不提出も課徴金の対象とされました。その額は、有価証券報告書の場合、不提出により監査費用を節約できたと考えて直前事業年度の監査報酬額を基準に算定されます(172条の3)。

 有価証券を上場する金融商品取引所は、上場証券の発行者に対し、投資判断にとって重要な会社情報が生じた場合に直ちにその内容を開示することを、上場規則によって義務づけています。また、取引所が発行者の会社情報について照会を行った場合には、発行者は直ちに回答しなければならず、取引所が必要と認めたときは、発行者は照会に係る事実を直ちに公表しなければなりません。これらをタイムリー・ディスクロージャー(適時開示)といいます。タイムリー・ディスクロージャーは、発行者と取引所・報道機関を結ぶネットワーク(TD-netなど)を用いて行われ、取引所のホームページ上に公開されます。開示を要する会社情報としては、インサイダー取引の重要事実とほぼ同じものが列挙されています。

 インサイダー取引規制では、インサイダーによる取引さえなければ、会社は情報を開示しないことが許されるのに対し、タイムリーこアイスクロLンヤーでは、重要な会社情報が発生した場合、インサイダー取引が行われていなくても情報を開示しなければなりません。開示情報が多いほうが投資家の利益になりますが、早すぎる情報開示が会社すなわち株主の利益を損なうことがないかという懸念もあります。アメリカでは、発行者がアナリストなど特定の者に対してのみ情報を開示することが問題視され、SEC(証券取引委員会)は2000年にフェアーディスクロージャー・ルールを制定し、情報の選択的開示を禁止しました。

 日本ではタイムリー・ディスクロージャーのルールが厳しいため、情報の選択的開示は、それが重要な会社情報に関するものであれば、すべてタイムリー・ディスクロージャー違反となります。発行者がタイムリー・ディスクロージャー違反した場合、取引所は、①開示注意銘柄への指定と公表、②改善報告書の提出命令と改善報告書の公表、③上場違約金の徴収、④上場廃止の四段階の措置をとることができます。タイムリー・ディスクロージャーは取引所の自主ルールなので、違反に対して刑事罰や課徴金は科されません。開示が遅れた場合や開示情報に虚偽または誤解を生じる記載があった場合に発行者やその役員に投資家に対する民事責任が生じるかどうかは、判例もなく、難しい解釈問題です。