2012年9月12日水曜日

小型辞典をえらぶ注意点

小型辞典をえらぶときに、わたしの経験上、ひとつだけ注意点がある。それは、純粋な国語辞典をえらんだほうがよい、ということだ。純粋なというのはへんな形容かもしれぬが、じっさいに市販されている辞書を見ると、国語辞典と銘打ちなから、ずいぶん、ほかにいろんな用途を兼ねているものが多いのである。
 
たとえば、ことぱとその意味、という本来の国語辞典であると同時に、そのことばをローマ字化するとどうなるか、とか、ペン字で書くときには、どうくずしたらいいか、とか、ひどいときには、これが和英辞典も兼ねていて、そのことばを英語ではどういうか、まで記載されているのである。

それは、一見したところ、便利そうにみえる。しかし、小型の辞書というのは、もともとが、ぎりぎりの字数で無理をしてつくられているのである。そこへもってきて、あれもこれも、というので、和英兼用、ペン字の書き方兼用、と欲張ってつめこんでいるのだから、この種の辞書は、結局のところ、どこをとってみても不完全になってしまうのである。国語辞典としても満足とはいえないし、和英としても、ほんの気休め程度だから、便利そうで、じつは役に立たない。

それは、いわば、ナイフのほかにカン切り、セン抜き、ハサミ、もろもろの刃物を組みこんだ十徳ナイフのごときものだ。あれにもこれにも使えます、と香具師が縁日で説明しているのをきくと、なるほど、便利そうだ、というのでわれわれは、つい買ってみょうかという気になる。しかし、じっさいに使ってみると、いっこうに役に立たないのである。ナイフとしても不完全だし、セン抜きも、カン切りも、中途はんぱで、実用からは、ほど遠い。あれもこれも、という欲張りの兼用は、おしなべてぐあいがわるい。